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広島地方裁判所 昭和42年(行ウ)25号 判決 1968年3月05日

原告 久保藤吉

右訴訟代理人弁護士 高橋武夫

被告 広島法務局供託官 太村治郎

右指定代理人 小川英長

<ほか一名>

主文

被告が、原告の昭和四二年八月一〇日付供託金取戻請求に対し、同年同月一五日付でした却下処分(日記供第一三四号)は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、別紙(一)のとおり陳述した。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁並びに被告の主張として、別紙(二)のとおり陳述した。

立証≪省略≫

理由

原告は訴外芸北木材株式会社との間で宅地の売買に関し紛争を生じ、同会社に対して土地売買代金返還金として二四万円、違約金として二〇万円、合計四四万円を提供したが受領を拒絶されたため、昭和二八年七月七日同会社を被供託者として広島法務局に対し右金員を弁済のため供託したこと(同法務局昭和二八年金第四八四号)、その後原告と同会社間で訴訟(広島地方裁判所昭和二八年(ワ)第六五三号事件、広島高等裁判所昭和四二年(ネ)第三四号事件)となったが、昭和四二年六月七日広島高等裁判所において裁判上の和解及び裁判外の和解が成立したこと、そのため原告は昭和四二年八月一〇日被告に対して右供託金の取戻を請求したところ、被告は昭和四二年八月一五日付をもって、本件供託金取戻請求権は時効によって消滅したとの理由で却下決定をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そこで右供託金取戻請求権の消滅時効の起算点について考察するに、弁済供託は、債権者に弁済の受領を拒否された場合等に、債務者ら弁済者が債権者のために目的物を国家機関たる供託所に供託して債務を免れる、供託者の利益のための制度であるから、この供託制度の趣旨から考えると、弁済供託の取戻請求権の消滅時効は、供託者において供託を維持する必要の存している間は進行せず、その必要がなくなったときから進行するものと解するのが相当である。これに反し、被告主張のように供託のときから消滅時効が進行すると解することは、弁済供託制度の趣旨を否定する結果となって極めて不合理といわなければならない。

そうすると、原告の本件供託を維持する必要は、昭和四二年六月七日の和解成立のときまで存し、その成立によってなくなったというべきであるから、本件供託金取戻請求権の消滅時効は右和解成立の日の翌日たる昭和四二年六月八日から進行し、原告が被告に対し右供託金の取戻を請求した昭和四二年八月一〇日には未だ消滅時効が完成していなかったことは明らかである。

よって、右見解と異なり時効によって消滅したとして原告の本件供託金取戻請求権を却下した被告の処分は違法であるからこれを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 立川共生 角田進)

<以下省略>

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